…甘露花海の性質についての分析は…実に興味深い。いわゆる聖蓮を構成するものに関して言えば、僕やヤコブの身体の組織とある程度重なる部分はあるが…カールおじさんとは、殆ど同じ性質が認められない。実に不思議な結果だ。さらなるデータとサンプルを集めて確かめる必要がある…でも、教団の人はサンプルの採取すらさせてくれない。ケチくさいやつらだ…
…乾いたパンを食べた。ジャムが残り少ない…
…霊光の力については、元素力よりむしろ██に似ている部分が多い…触れた物質やエネルギーを同化させる…霊光は██の力と対立するものだけど、同じく自らの意識を持っている。この点から、両者は同じ性質を持っていると言えるだろう…水銀は水と融合しないが、水銀同士は融合するのと同じだ…
…合理的に考えれば、霊光の力は██の力と同様に…この世に投影された結果の存在だと推測できる。ケチ教団に「闘争」という概念が生まれたのも、まさにこの考え方によるものだったのかもしれない…重要なことは、カーンルイア人の記録と組み合わせれば、世界式を逆算できるかもしれないということだ…
…今日はたくさん考え事をしたから、甘い物を少し多めに食べよう。ジャムを食べ終わった…
…彼は時々べそをかく。けど、仕方ない。僕は歯が全部生え変わったからもう大人だけど、彼はまだ3本目が生え変わったばかりだし…今頃、院内はアフタヌーンティーの時間だ。アランは元気にしてるかな…
…副院長先生は必ず帰ってくるって約束したんだ、と僕は彼に言った。彼女は絶対に約束を守る大人だし、絶対に子供を騙したりしない。でもいろいろ見ているうちに、彼女は帰ってこないんじゃないかって、思いはじめてきた。きっとヤコブもそう思ってるんだと思う。
…最後のジャムは僕とヤコブで分け合った…
…カーンルイア人の記録によると、ここから「アゾス物質」(ある種のエネルギーの塊)が生成されるみたいだ。確かに、まあまあ便利そうだし、少なくとも見た感じは安全性、安定性ともに問題なさそう…元々は農作機械にエネルギーを供給するために使われる予定だったみたいだ…
…結果からすれば、特筆すべき点は見当たらない。しかしそれは意志のない純粋な元素力がその対象として選ばれているからだ。例えるなら院長先生と水スライムの違い、と同じだろうか。彼女の性質からすると、彼女は死んではいないだろう。そう願っている…
…とても衰弱している。何か手を施さないと、フォンテーヌに帰りつくまで持たないだろう…
…力は利用できるはず…激怒してしまった。あれだけ遠く離れた家までが水没してしまったのだから、その種の力に抵抗を覚えるのも無理はない。しかし、なんとしてもヤコブの命だけでも救わないと。水仙十字院はもう…
…意識不明の状態…でも、力に良し悪しはないと僕は思っている。大人たちは本当に、頭が固すぎる…
…そういえば、まだご飯を食べてなかった。今日はジャムなしの乾燥したパン…
…意識が戻った…ヤコブが覚えてないものだから、カールおじさんは怪訝に思ってるみたい。でも、偽日記の効果はまだあると思う…
…の過程で得たデータは本当に面白い…カーンルイア人の残したファイルとこれらのデータによって、一部の算式が得られる…
…お祝いとヤコブの栄養補充のため(本当は必要ないけど、ヤコブにそのふりをしてもらうってことで話がついた)、今日はカールおじさんが果物を採ってきてくれた。それで僕たちは一緒にジャムを作った。残りの砂糖を全部使い切ってしまったけど、大丈夫だ。計画通りなら、もうすぐ帰れるんだから…
…第ニ洪水期の終わり頃までは推算できる(前回の庭の水没事件は第一洪水期と名付けて区別することにする。以前ヤコブがこれらの名称を混同したせいで、間違ったデータをインプットしてしまった)…
…認めたくないけど、何回計算しなおしても結果は同じだった。ヤコブと交差検証したが…どうも信じがたい。破壊?それとも変数の漏れ?明日再検証しよう…
…結果はルキナの泉の底に投げられた、コインのように明白だ。ヤコブも同じ現象を目撃している…きっと方法があるはず…絶対に方法はある…
…そんな中、ふと突破口の可能性を思いついた…計算結果は変わらないだろうけど、その製錬方法を…の力に転写すれば、その中の「意志」を抽出できるかもしれない。その方法によって…衝撃に抵抗する…
…明日フォンテーヌに帰ることになった。今回の旅では大きな収穫があったし、習得した新しい知識もきっと役に立つと思う…必ずさらなる厄災の到来を食い止めなければならない。計画は問題ないはずで、あとは僕とヤコブのやり方次第だ。ヤコブは怖気づいてしまってる。まだまだ子供だな。でも、あいつは既に大人にだって打ち勝てる力を獲得している。僕とヤコブ、それにアランを加えれば、絶対に災禍を食い止められる。
帰ったらアランと話し合おう。