「稲妻の傘。雨を防ぐ道具というより、独自の工芸品と言ったのほうが良さそうだ。竹の骨の感触も、傘の模様も、水や埃が油紙に染みた淡い色でさえ、細やかで細密に見える。狭い路地を通るたび、店舗の前にぶら下がっているこのような傘を見ると、ふと思い出してしまう話がある。昔々、町全体を騒がせたある傘があったそうだ…物語はこんな出だしから始まる——」
「今から数百年前、ある祭りの日、花見の席で狐や狸たちは戯れ、楽しく遊んでいた。普段あまり笑顔を見せない天狗たちでさえ、人々と杯を交わし、談笑していた。中でも最も注目を引いたのは華傘を手にした少女だ——鬼族の美酒を飲んで大いに盛り上がる中、月明かりの下で、少女は花吹雪のように舞った。妖怪も人間も、彼女の踊る姿に歓声を上げた。その後、軍勢と共に出征した時、少女は不幸にも命を落とした。彼女が愛用していた傘は、忠実な眷属たちの手によって神社に寄贈された。」
「ある武家出身の女性は、神社でお参りをする時にこの傘を見つけて惚れ込み、高値でそれを買った。次の日にちょうど雨が降り、彼女は傘を持って出かけようとしたが、着替えも終わらないうちに、遠方から夫が戦死したという訃報が届いた。女性は傷心のあまり、数日も経たないうちに病にかかり、この世を去っていった。葬式の後、彼女が買ったあの傘は、残された父母に不吉なものだと思われて、再び神社に贈り返され、棚にしまわれたまま置き去りにされることとなった」
「まさかその数ヶ月後、雨が降る夜の町で、見たこともない妖怪が祟っているという噂が広まったとは誰も思っていなかった。噂によれば、その妖怪は傘のようで、成人男性よりも背が高く、一つ眼で足も一本しかないという。そして長い長い舌を持つその妖怪は、一人で夜道を歩く人がいると、いきなり飛び出して、通りかかった人を舌で舐めるのだ。フォンテーヌ人から見れば、その妖怪は祟っているというよりも、悪戯をしているように見えた。とは言え、誰もあの妖怪の意図を知るわけではない。しばらくの間、町の人々は不安に駆られ、若い女性などは妖怪に出くわすのが恐ろしくて、出かけることすらできなかった。年寄りたちは、あの方がまだご存命ならば、あのような小妖怪が祟ることはなかっただろうにと口々に嘆いた——しかし、もはやこのような小妖怪の退治法ですら、知っている者は少なくなっていた。」
「その後、ある若い巫女がこのことを聞いて、神社からあの傘を出してきた。彼女は柄杓で水を掬うと、持ち手から石突までを丁寧に洗い、絹で油紙を何度も繰り返し拭った。そして傘にこう言った。」
「『あの時の雨が再び訪れることはないけれど、明日が過ぎても明日はまた来る。あの方がご存命ならば、このようなお姿はご覧になりたくなかったはずでしょう!』」
「そして彼女は、傘を神社の別殿に祀るようにと指示を出した。それからというもの、誰も傘が祟る話を聞かなくなった。」
「…というのが、稲妻の友人から聞いた話だ。しかし、鳴神各地の神社を多く訪問したが、傘を奉っていると言う話はてんで聞かなかった。これについて友人に話したら、彼女は失笑してこう言った。」
「『まさか、レフカダさんってば、怪談を本当の話だと思ったの?』」