俗世のものではない素材により鍛造されたとされる長柄武器。過去に孤忠で薄幸な人々の手を数多と渡り、数え切れないほどの殺戮と、面妖な血肉を見てきたという。伝説によると、邪を祓う者が晶砂の入口を訪れた際、その深き地から水色の不吉な晶鉱を採取したそうだ。それを利用して鍛造を依頼すると、出来上がった武器に「息災」という名を付けた。「今後、もし災厄が降りかかろうとも、これがあれば鎮めることができるだろう。」荒涼とした山奥で生きる一族は、口が達者とは言い難い。だが、契約が成立しておらず、対価も払っていないのであれば、それを受け取ろうとも支障はない。魔物の軍勢が層岩を侵し、辰砂色の大地を黒に染めた時、千岩の盾が漆黒の軍勢と衝突して、はぐれた騎兵が死を迎えた。まるで夕暮れに光る星の如く、息災は渦の中心で瞬いていたという…黄昏が暗雲を貫いた時、汚泥はついに淵薮の底へと沈んでいった。息災も、それを振るった夜叉と共に姿を消し、辺りは静寂であった頃に戻った。それ以降、この長槍を手にした者は皆、似たような運命を辿ったとされる。しかし、一国の令に縛られることなく敵を討ち、誓いを立てずに民を守る者にとっては、かような運命を恨みなどしないだろう…また、この長槍はかつて何者かに借し出され、冷たい水が侵食する洞窟の中、朋友の反目を見届けたと言われている。